「人の役に立ちたい、なんでも僕たちに言ってください」
この言葉が、今回の物語の始まりでした。
地域福祉に携わる私たちは、日々、地域へ出向く中で、心に残る出会いがあります。
今回は、泉南学寮(少年院)の少年たちと、「花笑舞(はなしょうぶ)」というよさこい踊りを行うボランティアグループとの出会いでした。
彼らが初めてよさこい踊りと出会ったのは、「泉南学寮グリーンサポーター」としての活動がきっかけでした。
ボランティアセンター主催のボランティアグループ連絡会に参加した際、彼らは自らの言葉で、地域とのつながりを求める熱い想いを語ってくれました。
その言葉に心を動かされたのが、「花笑舞」の皆さんでした。
「私たちにできることはないか」と、すぐに声をかけてくれたのです。
こうして始まったのが、少年院でのよさこい踊りの授業でした。
失敗しても、温かく見守ってくれる場所
週に一度の練習が始まりました。
当初は「彼らにできるのだろうか」と不安を抱えていたよさこい踊りの先生方も、練習を重ねるごとに、少年たちの驚くほどの成長を目の当たりにします。
「地域の高齢者が集まるサロンで披露する」という具体的な目標ができたことで、彼らの目は真剣に輝き始めました。
授業時間以外でも教官が自主練習の時間を設けてくれるなど、「周りの人々の期待に応えたい」、「成功させたい」、「楽しんでやろう」という強い意志が伝わってきました。
そして迎えた披露当日。
会場となった波太地区福祉委員会主催の「波太サロン」には、高齢者の方々や、福祉委員会のボランティアの皆さん、地域包括支援センター職員、グリーンサポーター活動を支援してくださっている市職員など、たくさんの方々が集まってくれました。
「この日のために一生懸命に練習してきました。失敗するかもしれませんが、温かく見守っていただけるとありがたいです。」
披露の前に、リーダー役を担った少年がそう挨拶をしました。
緊張しながらも、堂々と語る姿に、すでに多くの人が胸を打たれていました。
1曲目は、先生方が「挑戦する気持ちを大切に」という願いを込めた「やってみよう」。
そして2曲目は、「ケヤキの神」というだんじり祭をテーマにした曲です。
力強く、そして一生懸命に踊る12人の少年たちに、会場はただただ感動していました。



「ありがとう」が、未来を拓く
2曲の踊りが終わると、会場のあちこちで涙をぬぐう人が見られました。
「ありがとう、一生懸命さが伝わってきたよ。」
「本当に頑張っていたね。ありがとう。」
高齢者の方々や市職員の言葉に、多くの人が感動を分かち合いました。
よさこいの先生方も、少年たちの成長に感極まり、涙を流されていました。
「元々、私がよさこい踊りを始めたのは、コンビニなどでたむろしていてエネルギーを発散しきらない若者が、何かやりがいを持つことで、そのパワーを他のことに向けられられないかと思ったのがきっかけでした」
「今回、彼らが一生懸命に取り組んでくれて、披露することを目標に力を合わせていたことに感動した。彼らに私たちもパワーをもらった、本当にありがとう。」
「今日という日の経験は、皆さんの今後の人生に必ず役に立つものです。くじけそうになったときには、今日のことを思い出して、また頑張ってください。今日はありがとうございました。」
参加した皆さんが、少年たちに力強いエールを送ってくれました。
その言葉は彼らの立ち直りを願う、心からの言葉でした。
「みなさんの感想を聞いて、僕たちでも、何かを与えることができるんだということを実感しました」

立ち直り支援と地域共生社会への可能性
この活動を通して、改めて感じたことがあります。
それは、少年たちの「立ち直り支援」だけにとどまらない、地域全体に広がる大きな可能性です。
地域という場で、多様な背景を持つ人々がふれあうことで、互いを理解し、温かく受け入れようとする心が芽生えます。
そして、「みんなで温かい地域をつくっていこう」という意識が育まれるのではないかということ。
私たちの使命は、地域に暮らす一人ひとりが、『自分らしく、安心して、幸せに暮らせるまちづくり』に、みんなで取り組めるように支え、つないでいくことです。
小さな一歩が、やがて大きな力となり、地域を、そして社会をより良い未来へと導いていくと信じ、また、今回の出来事を通じて生まれたたくさんの「ありがとう」を未来へつないでいきたいと思っています。

熊抱 潤
阪南市社会福祉協議会 地域福祉グループ主任
第一層生活支援コーディネーター
福祉委員会の地区担当をはじめ、農福連携や漁福連携、子どもの居場所づくり、泉南学寮グリーンサポーター活動など、阪南市の地域福祉活動全般を担当
生まれ育った阪南市とたくさんの子どもたちをこよなく愛する”こだわらないことにこだわり続ける”がモットーのワーカー
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